ナラティヴ・セラピー ディスコース、脱構築、そしてダブルリスニング
本シリーズでは、入門コース、アドバンスコース、ふだん使いのナラティヴ・セラピー、再著述、そして文書化の実践と、ナラティヴ・セラピーについて包括的に学べるように研修をすすめてきました。今回は、さまざまな問題に苦しまされている人々の話を、ナラティヴ・セラピーではどのように聞き、どのような視点から糸口を見つけていくのかということを、いくつかのワークをしながら検討していきたいと思います。
当然のことながら、私たちは社会文化的な存在です。日本に育つということは、過去からの遺産を面々と受け継いでいる言語、文化、習慣、価値観に取り囲まれながら生きるということです。社会文化的な価値観は、常識とするもの、当たり前とするものを私たちに提示します。私たちは、この常識や当たり前の一部をうまく遂行することができずに悩むのです。時に(たぶん多くの場合)、この常識や当たり前のものができるようにするという方向性は、行き詰まります。なぜなら、人はいつまでたってもできないことがあるものです。それは単純に誰も完全ではないということです。しかし、そのように伝えたところで、それができないと悩んでいる人の助けになりません。
そこでナラティヴ・セラピーでは、人の悩みや問題が「問題」と理解され、維持されている言語的な実践(ディスコース)を明るみに出し、そのことがいったいどのようなことなのかを明確にする(脱構築)を通じて、別の視点から問題を理解できるような会話に誘っていきます。そのためには、人の物語を額面通り聞くのではなく、ダブルリスニングという姿勢で聞く必要があります。
このワークショップへの参加は、以前のワークショップに参加したことがあることが望ましいのですが、今回が初回でも理解でき、ワークに取り組めるように配慮したいと考えています。